高名な宗教研究者の著作によると「火事喧嘩、稲荷伊勢屋に、犬の糞」という言葉があるそうで、これは昔の江戸の町にどこでもあったものの例えだそうです。火事・喧嘩は江戸にはつきもの、商標など無い時代「伊勢屋」とういう屋号の店もどこかしこに有って、商売にご利益があるとされる「稲荷神社」も、どこ其処に祀られていたということです。 銀座の街だけでも、あちこちに小さな祠がありその多くが「稲荷神社」であるそうです。銀座に限らず、ビルの谷間に赤い鳥居を見かけることはよくあります。

3月31日は旧暦の初午(はつうま)、実家近所の稲荷神社はこの日が春の祭礼です。と言っても何があるわけでもなく、30軒足らずの氏子が掃除をして赤飯とお神酒を供えるだけ。 銀座のビルの谷間(ビルによっては屋上にもあるそうですが)の赤鳥居のようなきれいなものではありませんが、氏子手作りの朽ち果てそうな鳥居越しには「田舎の春」がよく見えます。

平日でも学校は春休み、川向こうの土手では子供たちが何かをを始めるようです。ゆっくりと、まったりと流れる時間のなかで時間が許して、あるいは祭礼の当番で集まった氏子は、地域の行政のこと最近亡くなった地区民のこと、転任した学校の先生のこと、とめどのない話で一時を過ごします。メディアやネットでは得られない貴重な情報でもあります。

相当に狂いが生じて、戸の立てつけも悪くなったに社には、祖父が生まれてきた孫の健やかな成長を願って奉納した五色の旗が飾られています。奉納した祖父も既に逝き、孫もこの春巣立ちました。 一見寂しいようで、この上なく豊かにも見えるこのような「春」の存在も、だんだん少なくなりました。
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